切断して、存在しない手腕、足が痛む!幻肢痛のなぞ!

病気や事故で手腕や足を切断後に失ったはずの手足が存在するように感じられることや、そこに温冷感やしびれ感などの感覚が感じられることを幻肢(げんし)といいます。

 

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 その幻肢が痛いという不思議な現象を幻肢痛(げんしつう)といいます。歯にもこの現象が存在するそうです。抜いてしまって存在しない歯が痛い、不思議ですね!歯の場合は幻歯痛(げんしつう)といいます。

 

ない足や手、腕が痛い!どうしてでしょう?

 

今回は、ない足や手、腕が痛い、幻肢痛の謎をご紹介いたします。

 

ない手足がどうして痛む!その原因はなに!

 

手や足の切断時の年齢が低いと幻肢痛は起こりにくく、年齢の増加とともにその発症頻度が増加します。また生まれた時から手や足がない先天性の四肢欠損の人は幻肢痛が発症することも非常に少ないのです。

 

幻肢痛の痛み方】

幻肢痛を訴える患者さんは、様々な性質の疼痛(とうつう)を訴えます。刃物で裂かれるような痛み、電気が走るような痛み、しみるような痛み、などの皮膚感覚の疼痛を約60%の患者さんが訴えています。

 

一方で、幻肢が痙攣(けいれん)するような痛み、こむら返りするような痛み、幻肢がねじれるような痛み、など運動感覚に関連した疼痛を約40%の患者さんが訴えています。極端な痛みとしては、電流を流した万力で潰されるような痛みと表現される患者さんもいます。

 

このような痛みは、痛みを感じているはずの手や足は実際には失われて存在しないために、当然のごとく鎮痛薬や麻酔などは効果がありません。患者さんは痛みで寝ることもできず、仕事もままならないなどの悩みを抱えています。

 

幻肢痛の原因】

詳しい原因は判っていませんが、脳内にある体の各部位に対応するマップ(ペンフィールド・マップ)が、その部位を失ったにもかかわらず更新されない、つまり手や足を動かせないことに脳が適応できないためだと考えられています。

 

実際に生まれた時から手や足がない先天性の四肢欠損の人は幻肢痛が発症することも非常に少ないのです。

 

カナダ出身の脳外科医、ワイルダーペンフィールドは脳は電気的な信号のやりとりで人体を制御している事を確認し、制御する体の部位は脳の部位ごとに決まっている事を明らかにし、脳の中に体の地図(ペンフィールド・マップ)を作り上げました。

 


                                             【ペンフィールド・マップ】 

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手を失なうとペンフィールド・マップの手の部位が感覚野、運動野、共に、無いものとして更新されたらいいのですが、手からの信号が来なくなった脳細胞は、そのすぐ近くの顔の部分に入ってくる神経と連絡回路を形成します。

 

そのために手を失っても手があるような感覚を持ったり、手を動かすような感覚になるのです。

 

私も脳梗塞で右手が麻痺して動かないのですが、ギターでトレモロ奏法をしている感覚を持つことがあります。もちろん指は、動いていません。

 

ない手足が痛む、幻肢痛の治療法はあるのか!

 

ないはずの手や足が痛むのですから鎮痛剤は効果がありません。ではどのような方法で治療するのでしょうか?

 

【鏡治療・鏡療法・ミラーセラピー】

鏡療法は、アメリカの神経科医であるラマチャンドラン博士が考案したものです。内部にの仕切りがある箱の中に健常な腕や手を入れて、鏡に映します。

 

鏡に映った手や腕は、反転して映るのでまるで失った手や腕があるように錯覚し、患者さんが健常な手を「グー・パー」などと動かすことで、まるで失った手や腕が動いている様な錯覚を起こします。

 

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そのため、脳の感覚の葛藤が減少し、幻肢痛も減少します。

鏡療法を4週間行うことで、幻肢痛が37.6%減弱したと報告されています。

 

【「幻の手」訓練法】

大阪大学の栁澤琢史教授(高等共創研究院)と齋藤洋一特任教授(常勤)(大学院医学系研究科脳神経機能再生学共同研究講座)らの研究グループが開発中の「幻の手」を使った方法です。

 

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 幻肢痛患者さんの動かせる手の写真を左右逆転させて「幻の手」の映像を作製。この「幻の手」は脳信号を使ってコンピューターを動かすことができ、この技術はBCIといいます。

 

「幻の手」は、患者さんが健常な手を動かす際の脳活動に近い信号が検出された時に動くように設定されています。

 

この「幻の手」を使って幻肢痛患者さんが自分の幻肢を動かすつもりで画像の幻肢を動かす訓練をすることで、幻肢に関連した脳活動が減弱し、痛みが一時的に減弱することがわかりました。

 

3日間の訓練後、患者さんに痛みを主観的に評価してもらうと、訓練の5日後で平均で36%痛みが減りました。

 

まとめ

「切断して、存在しない手足が痛む!幻肢痛のなぞ!」をまとめてみました。

 

・皮膚感覚の幻肢痛を約60%の患者さんが訴えています。

 

運動感覚に関連した幻肢痛を約40%の患者さんが訴えています。

 

幻肢痛の原因は、脳内にある体の各部位に対応するマップ(ペンフィールド・マップ)が、その部位を失ったにもかかわらず更新されないためと考えられています。

 

幻肢痛の治療方法は、鏡療法と「幻の手」訓練法があります。