ナノテクノロジーって知ってますか?

最近、ナノテクノロジーという言葉をよく耳にします。マイクロとかミクロはよく聞きますがナノテクノロジーって、なに?

 

今から54年前にアメリカで製作された「ミクロの決死圏」という映画が上映されました。敵側の襲撃を受け脳内出血を起こし意識不明となった科学者の命を救うために、潜航艇とこれに乗る医療チーム

                 体内で治療する医療チームと潜航艇

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をミクロに縮小して体内に入り、脳の内部から治療して、体外に脱出するというSF映画で、当時としては斬新なアイデアが高い評価を得た映画でした。

 

ミクロの決死圏」から54年後の現在。SF映画に近い医療技術が確立されようとしています。それらを可能にする技術がナノテクノロジーです。

 

1nm(ナノメートル)は、1mm(ミリメートル)の100万分の1の大きさです。人の細胞の大きさが約6,000~2,500 nm、インフルエンザウイルスが約100 nmですから「ナノ」の世界がいかに微小な世界であるかわかります。

 

今回は、こんなウイルスと同じ大きさの世界のナノテクノロジーについてご紹介いたします。

ナノテクノロジーは今、どこまで進んでいるの?

はたしてナノテクノロジーの、現状は、どこまで進んでいるのでしょうか?医療、製造、科学の分野で解説します。

 

医療:がん治療】

がん治療に使用するのは、50 nm(1mmの5万分の1)の大きさのナノマシンと呼ばれる粒子の内部に、抗がん剤を包み込ませて、注射で身体の中に入れます。

                      ナノマシン:0.00002~0.0001ミリメートル

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がん細胞は増殖に必要な栄養や酸素を取り込むために周囲に血管を寄せ集めますが、この血管壁は100 nmという粗い組織です。

 

そのため50 nmのナノマシンは、100 nmのがん細胞の血管壁を通り抜け、がん細胞の中に入り込むことができます。がん細胞はナノマシンを異物とみなし、消化酵素を出して壊そうとします。

 

その際、がん細胞内のpH(ペーハー)が下がるので、ある値まで下がったらナノマシンが検知して自ら壊れ、内包された抗がん剤が放たれます。

 

抗がん剤は正常な細胞の血管は、通ってしまうので強い副作用を起こしますがナノマシンは50 nmの大きさなのでの正常な細胞の血管は通れませんから強い副作用は、起きません。

 

臨床試験は第1相で安全性、第2相で効果、第3相で他の治療法との比較と進んでいきますが現在、乳がんとすい臓がんで第3相に入っており、順調にいけば3年後には実用化になるそうです。

 

製造:プラスチック射出成型で反射しない面の成型】

プラスチック樹脂を熱で溶かし、高速で金型に射出して成型する射出成型で、溶けた樹脂が入る金型の表面に1粒が約100 nmほどの金属が、制御されたナノ構造体となって並んでいます。

 

このナノ構造体の凹凸が成型の時に、プラスチックに転写されるとその面に光が当たっても光が反射しない面になります。この技術をガラスに応用すると光を反射しないレンズができます。

 

1眼レフのカメラは、1台に7個ほどのレンズを使いますが、成型だけで14面に反射防止機能を付与することが、できるようになります。

 

また、この技術を透明なフィルムに応用すると水を弾かない親水性を持ったフィルムになり、車のフロントガラスなどに応用すると雨がかかっても水玉にならないで広がるように下に流れ落ちます。

 

科学:カーボンナノチューブ

カーボンナノチューブは、チューブ形状を持ち、炭素原子が規則正しく配列されている物質です。カーボンナノチューブは日本で初めて発見された新素材です。1991年に飯島澄男さんが構造を解明しました。

 

                               【単層カーボンナノチューブ

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カーボンナノチューブの特徴】

・チューブの直径は数nmから数十nm(1nmは1億分の1m)

です。

 

・長さは直径の100倍程度(約100万分の1m)です。

 

・単層のもの、チューブの中にチューブが入っているものがありそれぞれ単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブと呼んでいます。

 

・軽くてアルミニウムの約半分くらいの重さです。しかしその硬さは、同じ炭素でできたダイヤモンドにも負けないほど硬く、強度は鋼の20倍で、引っ張ってもちぎれずに伸びて、放すと元に戻る柔らかさがあります。

 

・銅の約1000倍くらいの高い電気伝導性があります。

 

・銅の約10倍の高い熱伝導性があります。また、空気中では750℃、真空中では2000℃以上の耐熱性があります。

 

半導体的性質を持たせることも可能です。

 

カーボンナノチューブ実用例

【超薄型ディスプレイ】

2層カーボンナノチューブを裏面に塗布した超薄型ディスプレイが

量産化されています。電子看板電子書籍に利用されています。

 

【電磁波・遮へい塗料】

カーボンナノチューブを用いた電磁波遮へい塗料が開発されてい

ます。膜厚12μm(0.012mm)・遮へい率99.9%以上

耐熱性180℃(24時間で変化なし)の性能があります。

 

これを塗布した電磁波遮へい板を使用すると、完全に電磁波が

遮断されますので自動車のワイヤーハーネスの電磁波防護対策

などへの応用が、期待されます。

 

【人工関節の摺動部材料】

現在の人工関節の摺動部の材料には、ポリエチレン・超高分子ポリエチレンが使用されていますがこれは、10~20年で摩耗して壊れます。

        【人工関節】摺動部が壊れる!

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セラミック・アルミナ、ジルコニアを使ったものは、10~20年で破壊して、壊れます。したがってそれぞれ10~20年後に人工関節の入れ替えが必要となります。

 

そこで今、材料にアルミより軽く、ダイヤの様に硬く、鋼の10倍の強度があるカーボンナノチューブを複合した新しい材料を開発しています。今は動物実験の段階ですが10年には実用化を目指しています。

ナノテクノロジーの未来は、どうなる!

ナノテクノロジーの未来はどんな展望があるのでしょうか?いろいろな分野からご紹介いたします。

 

  • アルツハイマー病は、認知症を引き起こす深刻な病気です。脳にアミロイドベータという、たんぱく質が溜まり正常な神経細胞が壊れ、脳に委縮が起きることが原因です。全世界で210~350万人の患者がおり社会問題となっています。

 

これを克服するために問題になるのは、脳の中には薬が入らないということです。脳は大事な司令塔ですから、これを守るために脳の血管は非常に高いバリアを持っています。

 

このバリアを超えるためには、特別なカギを使って扉を開けなくてはいけません。そこでポリオウイルスがこのバリアを潜り抜け、脳に侵入するメカニズムに着目し、原因物質を作る元の酵素を抑える薬をナノマシンで脳の中に送り込み、アルツハイマー病の進行を抑えることを目標に開発しています。

 

  • 硬さは、同じ炭素でできたダイヤモンドにも負けないほど硬く、

戻る柔らかさがあるカーボンナノチューブでロープを作ると、直径

 

1cmで1200トンの重さに耐えられるような、驚異的な強度のロープ

が作れます。自動車など、強度としなやかさの両方が求められる分野

の素材としての応用が期待できます。

 

  • アルミより軽く鋼の20倍の強度があり、銅の約1000倍くらいの高い電気伝導性があるカーボンナノチューブを電気の送電線に利用できたら細くて軽くて、大量の電気が送れる送電線になるために開発が進められています。

          【送電線】

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より遠くへ飛べるロケットを作るために、ロケットを軽量化することが

可能になります。

 

カーボンナノチューブの中に吸収させることで、安全に水素を持ち

歩ける燃料電池ができるのではないかと研究が進められています。

 

実際に円錐形の特殊な形のナノチューブ(カーボンナノホーン

電極とした燃料電池が開発されています。急速に充電可能な電気

自動車などが開発される期待がもてます。

 

まとめ

 

ナノテクノロジーについてまとめてみました。

 

・1nm(ナノメートル)は、1mm(ミリメートル)の100万分の1の大きさです。

・インフルエンザウイルスが約100 nmです・

 

・がん治療に使用するナノマシンの大きさは、50 nmでインフルエンザウイルスの半分の大きさしかありません。

 

カーボンナノチューブは直径は数nmから数十nmで、長さは直径

の100倍程度です。

 

このように工業、化学、医療はインフルエンザウイルスよりも小さく、電子顕微鏡でないと見えない世界でも発展しています。